【越冬期間/平成11年(1999)12月21日〜平成12年(2000) 3月22日】
サラブレッドと一緒に牧草を採食するガンの群れ
写真左からマガン、ハクガン、シジュウカラガン、シジュウカラガン、マガン、シジュウカラガン、シジュウカラガン
ねぐら入りが近づく午後4時頃、盛んに採食するシジュウカラガン
●はじめに
例年より2か月早い10月23日、マガン幼鳥1羽が静内町田原の田原沼に突然現れ、10日間
の短期間ではあったが姿を見せた。
また、静内町から50q東に位置する浦河町でも初めてマガンが確認され、浦河郡浦河町東
幌別、東ライベツ川におき、11月15日から川が結氷するまでの12月1日まで17日間、マガン
幼鳥2羽が約80羽のカモたちと一緒に生息した。
更に、この2羽はその後、様似町の様似川にねぐらを移し3月13日までの間、越冬し、浦河
町と様似町で初めてマガンが越冬した。このように今シーズンは、マガン(幼鳥)が例年より早
い時期から姿を見せ、日高支庁管内では静内町以外の町で初めて越冬が記録された。
静内町での越冬は、5シーズン目を数えるが今シーズンほど特徴的な年はなく、極めて収穫
の多いシーズンとなった。その一つは、68羽の雁たちが93日間にわたり越冬、過去最高であ
った昨シーズンの46羽を22羽も上回り、なおかつ連続して5シーズンを経過、越冬地として定着
し「日本最北の越冬地」を確立出来たこと。
二つ目は3種類のガンが越冬したことで、これまでに越冬したマガン、ヒシクイ、シジュウカラ
ガン(標識鳥:069)に加え、越冬数が国内で5羽前後のハクガン(ハクガンかオオハクガンは
不明)が加わり、なおかつ危急種(絶滅の危険が増大している種)で国内越冬数が数羽程度の
シジュウカラガン4羽が越冬するなど、話題が多く興味深いシーズンとなった。
また、静内で越冬中の群れが3月4日〜5日、3月12日の二度にわたり、静内から60q北に
位置する鵡川町(直線距離でウトナイ湖まで30q)まで移動、再び静内町へと戻って来たのが
初めて確認された。
温暖な静内地方では例年3月上旬と言えば、気温も上昇、通年であれば採食について何も
問題がないが、今年の冬はとにかく気温が低く、例年、降雪量が少ない日高地方、胆振地方で
も相当量の積雪となった。
移動当日は、30〜40p程度の積雪があり、採食可能なのは水田の畔道の枯れ草のみで落
穂等を食する事は不可能であり、群れの移動を試したものの、結局は満足な採食活動が出来
なく、美味しい青草(若芽)がふんだんにある静内町へと舞い戻ったものと推察される。
これは群れの中にハクガン1羽、シジュウカラガン4羽が含まれていたため判明したもので、
数千羽の群れの中から二度もこの群れを発見出来のは、偶然とは言え幸運以外の何物でも
なかった。
一方、苫小牧市でもウトナイ湖をねぐらとしたヒシクイ3羽が越冬し、静内町以外での越冬と
しては様似町(浦河町)と共に、少数の個体数とはいえ静内町以外の越冬地が今シーズン一
挙に2箇所が増え、北海道では3箇所に於きガンが越冬するという当年となった。
このことは、マガン個体数が今シーズン67,000羽という驚異的に増加したという背景と併せ、
ガン類の北海道での越冬が場所、個体数共に僅かながらも増える傾向になり、来シーズン以
降、道内での越冬が更に増加するのであれば、地球温暖化に起因する事象の節目となり得る
シーズンとなった。
なお、採食場所及びシジュウカラガン及びハクガンが越冬している事を越冬終了まで、関係
者並びに報道機関等に提供しなかったのは、安全に生息出来るための環境づくりと観察に協
力していただいている牧場との“場所は明かさない”という約束事によるもので、協力を賜った
日本雁を保護する会、各新聞社・TV局には心より感謝とお礼を申し上げたい。
また、越冬にあたり辛抱強く観察を続け、データ作成に協力をいただいた静内雁を保護する
会員の協力なしでは、これまで詳細なデータ作成はとても不可能で、改めてそのご尽力に敬
意を表すると同時に、原稿作成にあたり快く観察データをご提供いただいた次の方々には、い
つもながらのご協力に改めて感謝する。
○日本雁を保護する会………呉地正行
○日本雁を保護する会………井川 浩
○日本雁を保護する会………池内俊雄
○日本雁を保護する会………佐場野裕
○ウトナイ湖サンクチュアリ… 葉山政治
○滝川市(宮島沼)………… 長谷川富昭
●越冬期間・越冬数
【日高支庁管内/静内町】
*平成11年12月21日〜平成12年3月22日
○マガン63羽(幼鳥32羽・成鳥31羽)
○シジュウカラガン4羽(幼・成鳥は不明)
○ハクガン1羽(幼鳥1羽.オオハクガンと思われる)
○合 計 68羽(標識鳥なし)
*種 別(5タイプ)
@マガン63羽(成鳥31羽・幼鳥32羽、A牧場)
平成11年12月21日〜平成12年3月22日(93日間)
Aシジュウカラガン4羽(A牧場)
平成11年12月21日〜平成12年3月22日(93日間)
Bハクガン幼鳥1羽(A牧場)
平成11年12月21日〜平成12年3月22日(93日間)
*なお、この群れとは別にマガン幼鳥が生息した。
Cマガン幼鳥1羽(静内町田原・田原沼)
平成11年10月23日〜平成11年11月1日(10日間)
【日高支庁管内/様似町・浦河町】
Dマガン幼鳥2羽(120 日間)
・浦河町東幌別・東ライベツ川
平成11年11月15日〜平成11年12月1日(17日間)
・様似町・様似川
平成11年12月2日〜平成12年3月13日(103 日間)
【胆振支庁管内/苫小牧市】
Eヒシクイ3羽(飛翔可能2羽、飛翔不可能1羽)
・ウトナイ湖
平成11年12月〜平成12年2月
(越冬期間は、他の渡りの群れと離脱していた間)
●ねぐら
昨シーズンまで、ねぐらは田原地区にある静内川中流域のみの一か所であったが、今シー
ズンは、初めて従来の場所以外の静内川下流域を何度か使用した。
●採食地
○A牧場(68日間)
平成11年12月21日〜平成12年1月16日(27日間)
平成12年2月11日〜平成12年3月22日(41日間)
○浦和地区/増本牧場・八田牧場(25日間)
平成12年1月17日〜平成12年2月10日(25日間)
●浦和地区(増本牧場・八田牧場)
国道235 号線沿いに位置する牧場で、採食地として利用したのは国道235号線より太平洋
側で国道とJR日高線が平行して走る。相当数の交通量があり、国道及びJRが平行する騒音
地帯になぜ採食場所を選んだのかという疑問符が付くが、海洋性気候で温暖、降雪量が希少
という静内町内の中でも、降雪量が少なく採食条件の最も整った箇所の一つ。
●採食状況
今シーズンは、主として町内のA牧場で採食をしたが、このA牧場とは別の浦和地区の牧草
地でも25日間にわたり採食し、従来、次々と採食地を変えていった事象に歯止めがかかり、こ
の2箇所に集中しての採食となった。
これは、採食場所を未公表とし、生息環境を整えた結果、マガンたちが安心して採食行動を
営んだ証しで、私自身も群れに近付くのは月に1〜2回程度とし、遠隔地からの観察を徹底す
ると同時に、写真もほとんど撮らないよう自分に課すなど、徹底した安全管理体制を敷いた。
浦和地区での採食も、たまたま今年は、例年にない積雪が原因で採食が困難となったため
に、仕方なく群れが降雪量の最も少ない浦和地区へ移動した結果であり、降雪量が平年並み
であれば、A牧場からの移動行為は起こり得なかったと思われる。
理由は、A牧場の牧草は牧場のご厚意で秋の刈り入れ時期に刈り取りをせず、冬場にガン
たちが牧草を沢山食べれるよう配慮していただいていることもあり、質・量共に町内では飛び
抜けて優れていること。周辺の越冬環境が極めて良いというなどが挙げられる。
●環境整備
静内町には馴染みがなかったマガンを知らしめることを目的に、越冬1〜2シーズン、その
存在を積極的にPRをし保護活動のための基礎を築こうと全力を挙げたが、結局、これが裏目
となり、何の知識もない人やアマチュアカメラマン、バードウォッチーなどがむやみやたらに群
れに近付いた結果、現在では1〜2シーズンの採食場所には全く姿を現さなくなった。
この教訓を元に、ここ数年はマガンたちが、少しでも安心して越冬が出来るような環境整備
が必然的に私の役割となった。
越冬数が増え、群れが落ち着いて越冬するには現時点ではなんと言っても、採食場所の公
開を避けることが最も効果があるが、越冬する牧場主からサラブレッドへの安全配慮、防疫上
から人の出入れ制限などの理由から、牧場名を明かさないことを条件提示されたのは、保護の
観点からすると逆に好材料となった。
しかし、採食場(牧場名)を伏せることに対し、何人かの方から感想や意見をいただいたが、
事実、私が心配したとおり、町外の方がストレートに全国へ情報伝達したため、一時期、関西
やマスコミ、野鳥関係者などから問い合わせが集中するといった憂慮すべき事態が発生した。
私は、群れが安心して越冬出来る環境が整うまで待って欲しいと、お願いしているだけで、
現状や事情も知らずして批判めいた一部の声にはナンセンスとしか言いようがない。
何と言っても、ここ数年が最も大切な時期であり、最悪の場合、北海道での貴重な越冬事例
が消滅することになりかねないである。
●渡りルート(シジュウカラガン・ハクガン)
平成11年12月21日〜平成12年3月22日まで、シジュウカラガン4羽、ハクガン1羽が静内
町で越冬したが、それ以前に苫小牧市・ウトナイ湖、美唄市・宮島沼、砂川市・袋地沼で確認
されており、それぞれが希少種ゆえに同一個体である可能性が強い。
また、12月21日、静内町に初渡来したマガンたちの群れ数は、個体数を調べるために撮っ
た写真には76羽が写っており、翌22日には越冬数となった68羽に減少していることから、ウト
ナイ湖で越冬した3羽は、12月21日に一旦、静内町へと飛来した76羽の群れの一部と思われ
る。
●宮島沼の雁(北海道美唄市)
平成11年10月26日〜平成11年10月31日〜シジュウカラガン4羽
平成11年10月12日〜平成11年11月7日〜ハクガン(幼鳥)1羽
*滝川市・長谷川富昭氏提供
●袋地沼の雁(北海道砂川市)
平成11年10月24日〜平成11年11月26日〜シジュウカラガン4羽
平成11年11月2日〜平成11年11月6日〜ハクガン(幼鳥)1羽
*滝川市・長谷川富昭氏提供
●ウトナイ湖の雁(北海道苫小牧市)
○札幌市・井川浩氏データ提供
平成11年10月31日〜ヒシクイ200 羽、マガン20羽、ハクガン1羽(成鳥)
11月20日〜ヒシクイ・マガン450 羽、ハクガン1羽(幼鳥)
11月28日〜シジュウカラガン4羽、マガン200 羽、ヒシクイ10羽
12月4日〜シジュウカラガン2羽(確認分のみ)、マガン200 羽、ヒシク
イ4羽、ハクガン1羽(幼鳥)
12月18日〜シジュウカラガン4羽、マガン43羽、ハクガン1羽(幼鳥)
12月29日〜ヒシクイ2羽(飛翔不能2羽)
平成12年1月8日〜ヒシクイ2羽(飛翔不能2羽)
1月15日〜ヒシクイ5羽(飛翔可能2羽、飛翔不能2羽、不明1羽)
○ウトナイ湖サンクチュアリデータ提供
平成11年12月〜平成12年3月
(越冬期間は、渡りの群れが去った時から再び北帰行で戻ってくるまで)
〜ヒシクイ3羽(飛翔可能2羽、飛翔不能1羽)
●ハクガン国内越冬数
静内で初めて越冬したハクガン幼鳥、体が大きいのがこの写真からも分かる
近年の国内でのハクガンの越冬数は次のとおりである。この表はハクガンが希少種で
あることをあらわしているが、今シーズンも7羽が越冬するなど、嬉しいことにここ数年は
越冬数が増加の傾向を示している。
*データ提供〜日本雁を保護する会 (ハクガン復元計画担当:佐場野 裕)
シーズン 数 観 察 地 成鳥 ・幼鳥 備 考 71/72 1羽 秋田県・八郎潟 昭和46/47年 72/73 − 73/74 1羽 秋田県・八郎潟 昭和48/49年 74/75 − 75/76 − 76/77 − 77/78 − 78/79 − 79/80 − 80/81 − 81/82 1羽 秋田県・八郎潟 昭和56/57年 82/83 1羽 秋田県・八郎潟 昭和57/58年 83/84 − 84/85 − 85/86 1羽 宮城県・伊豆沼、他 幼鳥1羽 昭和60/61年 86/87 2羽 秋田県・八郎潟 昭和61/62年 87/88 − 88/89 − 89/90 − 90/91 1羽 秋田県・八郎潟、他 平成2/3年 91/92 − 92/93 − 93/94 4羽 成鳥1羽.幼鳥3羽 平成5年/6年 94/95 4羽 成鳥1羽.幼鳥3羽 平成6年/7年 95/96 4羽 成鳥4羽 平成7年/8年 96/97 4羽 成鳥3羽.幼鳥1羽 平成8年/9年 97/98 8羽 成鳥4羽.幼鳥4羽 平成9年/10年 98/99 7羽 サロベツ原野
ウトナイ湖
十勝川下流
恵庭市・長都沼
美唄市・茶志内
青森県・廻堰大溜池
秋田県・小友沼
秋田県・八郎潟
新潟県・朝日池
石川県・鴨池成鳥7羽 平成10年/11年
99/00
7羽 宮城県・伊豆沼
蕪栗沼
化女沼
〜2羽
(A1・J1)
新潟県・福島潟
朝日池
〜4羽(A4)
北海道・静内
〜1羽(J1)成鳥5羽.幼鳥1羽 平成11年/12年
●シジュウカラガン99/00年度越冬数
1999年/2000年度の国内での越冬数は、近年にない個体数が記録され、現在、詳細を
調査中ですが、確認されている総数は19羽(野生〜16羽、千島列島で放鳥〜3羽)となっ
ている。詳細は「99/00年度シジュゥカラガン観察記録」へ。(日本雁を保護する会提供)
越冬した4羽のシジュゥカラガン、静内での越冬は二度目
●採食物(餌)
○68羽の群れの採食物は、今シーズンもほとんどが競走馬の飼育に関連する草地、採草
地、放牧地などの“牧草”である。
○前年同様、早朝時はまどろみが続くも、9時頃から活発な採食活動に入り、お昼頃に少々、
背眠をするなどの休息をとり、午後から再び採食を継続し、特に日没90分前からは旺盛な
採食をとる。
○ハクガン1羽、シジュウカラガン4羽の採食は、マガン63羽といつも同じで、ねぐらも含めて
常にこの群れと共に行動した。また、マガン群れとの争いごとなどは皆無であった。
○マガンたちの主食は牧草の新芽(青草 )である。これも例年の行動と変わらない。
○今シーズンは例年と比較し、日高地方、胆振地方共に降雪量が多く、ガンの採食行動は非
常に困難を極めた。いつもの年であれば数十センチの積雪は1シーズンに数える程度であ
るが、今年は連続的に降雪が続き、根雪になった上、更に雨も降り、それが何度か凍って
地表部分がアイスバーン状態となったため、地上の牧草を採食するには悪条件が重なった。
○浦和地区での採食が25日間になったのは、静内町で最も今シーズン降雪量が少なかった
場所への移動によるもので、交通量が多く騒音が絶えない、多く人の目にもさらされやすい
など、国道235号線沿いという悪条件にもかかわらず長期間にわたり採食活動を続けたの
は、越冬には必要不可欠な餌の確保という最低条件が勝った結果と考えられる。
○例年、3月になると採食物がそれまでの牧草から米へと移行するケースが多かったが、今
シーズン、水田での落ち穂等を採食する観察例は一度もなかった。理由は静内町、鵡川町
共に積雪量が多く、米の採食行動が不可能となったことによるものと考えられる。
●観察例(データ)
○別掲、「越冬5シーズン観察データ」bP〜4に記載。(下の をクリック)
bP〜浦河町・様似町で越冬したマガン幼鳥2羽の観察記録。
bQ〜静内町で越冬した68羽(マガン・ハクガン・シジュウカラガン)の1月2日、1月8日、
2月20日観察(抽出)記録。
bR〜静内町で越冬した68羽(マガン・ハクガン・シジュウカラガン)の3月中観察記録。
渡りを間近に控えた群れのアクティブな行動が興味深い。
bS〜1999/2000年度 ガン類の個体変動 (確認数、種類)