「マガン北海道越冬9シーズン目記録」
【越冬期間/平成16年(2004)1月14日〜平成16年2月28日】
越冬9年目となる今シーズンは、気象の異変により従来とは異なる越冬パターンとなり、マガンにとっては異常気
象にほんろうされながらもこれまでとは違った、幾つかの特徴をもった越冬となった。これは、比較的温暖である冬で
あったことと、1〜2月に入ってから静内町では珍しく降雪量が多く採食環境が極めて悪化したことに起因する。
事例をあげると、例年、早いシーズンで11月下旬、平年であれば12月中旬には静内町へ渡来していたマガンが一
向に姿を見せず、年が明けた1月14日になりようやくウトナイ湖より静内町へと移動したが、今までで一番遅い記録
となった。それまでの間、門別町、鵡川町などを調査したもののどこにも姿を確認することは出来なかったが、1月3日
になり、ウトナイ湖へとねぐらいりするマガン群れを今シーズン初確認、しかも個体数は200羽を超えていた。
調査の結果、採食地はウトナイ湖周辺であったが静内町へと移動をしなかったのは、例年になく温かい日が続き気
温が上昇した結果、ウトナイ湖が結氷せず、ねぐらを確保出来たことと、積雪が少ないため採食環境が良く採食が容
易であったことによる。
また、ウトナイ湖での群れ数は200羽を超えており、静内町へと移動した14日の時点でも同様に200羽を超えてお
り、翌日の15日にも最低でも220羽を確認している。しかし、16日には100羽程度に減少し、その後、静内町での越
冬数は最大で105羽となった。
結局、静内町へと渡来した三日目以降、群れ数が約半数に減少したことになるが、その行方については日高支庁
管内及び北海道でもう一つの越冬地である伊達市などを調査したものの約100羽の群れを確認することは出来ず、
分からず終いとなった。一般的に考えられることとしては、何かの事情により静内町での越冬をあきらめ、本州へと移
動したと思われる。
移動要因としては1月14日、静内町は相当の積雪があり採食環境がよくないため、このままであれば200羽の採
食が不可能と判断したか、野生動物が持ち合わせる独自の予知能力により今シーズン、静内町での降雪量が多いと
いうことを事前に察知、今シーズン静内町での越冬は困難と判断した等のことが考えられるがいずれも推測の域を脱
していない。
二点目の特徴としては、1〜2月、静内町としては珍しく降雪量が多かったことで、このことにより、町内での採食環
境が極めて悪化し、マガン生態の特徴の一つでもある群れで行動すら出来ない結果となった。結果、多い時には3〜
4、少ない時でも2〜3の群れに分かれての採食となり、とにかく数少ない融雪地を懸命に探しては群れを成すという形
態となり、一度生息した場所に、徹底的に拘る習性を持つマガンが、昨シーズンまでとは異なった場所での採食を余儀
なくされ、マガンには気の毒なシーズンとなった。
三点目の特徴としては、静内町での越冬期間が1月14日〜2月28日と僅かに46日間となり、過去最短であった3
シーズン目の48日間(平成10年1月6日〜平成10年2月22日、34羽〜マガン33羽・シジュウカラガン1羽)を2日間上
回り更新した。
更に群れ特徴の一つとして、越冬した105羽の構成はマガン104羽、ヒシクイ幼鳥1羽であり、ヒシクイ1羽は、単独
行動、若しくはマガン幼鳥との2羽で採食することが多く、独自の行動をとったが、このことは、従来での越冬シーズン
にも見られたことで特別珍しい行動ではない。
今シーズンをまとめると次のとおりとなる。
@地球温暖化現象により気温が上昇、また降雪量が多いことにより、静内町での越冬期間が過去最短の46日となっ
た。
A一度、静内町へ渡来した群れが何らかの事情により、半数に減少しそのまま越冬した。
B降雪量が多いことにより、採食場所の確保が困難となり、群れが分散しての採食行動をとった。
しかし、2月24日、群れ数が越冬数の105羽より5羽多い110羽となり、よく調べてみると本州からの渡りが既に始
まっており、その一部が静内町での越冬組と合流したことが判明。このことにより、毎年、静内町での越冬最終日が2
月22日前後に集中しているのは、本州からの北帰行の動きに連動していたことが判明したことが、私のとっては救い
となった。
なお、静内町ではハクガン、シジュウカラガンなど希少種の越冬は今シーズンはなかったが、静内町と同じ日高支庁
管内の浦河町でマガン2羽とカリガネ1羽の計3羽(共に幼鳥)が、平成15年12月11日〜平成16年3月21日までの
約四カ月間越冬した。カリガネは個体数も少なく、当然のことながら北海道での越冬は初めてのこととなる。
●マガン200羽以上〜平成16年1月14日〜平16年1月15日(2日間)
●マガン100羽以上〜平成16年1月16日〜平16年2月28日(2日間)
●ヒシクイ幼鳥1羽 〜平成16年1月14日〜平成16年2月28日(46日間)
*計105羽 〜平成15年1月14日〜平成16年2月28日(46日間)
越冬したガン類のねぐらは、今シーズンも全てが静内川の中州を使用したが、昨シーズン同様、予想に反して時期
的にかなりの範囲で移動した。理由については不明であるが、恐らくキツネなどの天敵がねぐら付近に現れ、仕方な
く移動した可能性が高い。
また、1月17日の例のように26羽という小群のねぐらからの飛び出しを確認したものの、残りの飛び出しは確認出
来ず、幾つかの群れに分散してのねぐら利用となったことも今シーズン特徴の一つ。
越冬9年目となる今シーズンの特徴的は、採食場所が積雪が多かったために一定しなかったことで、水田の傾斜
地など積雪が少なかった場所を次から次へと探し回っての採食となった。また、採食量が限定された結果、従来の一
つの群れではなく幾つかのグループに分散しての採食となり、更に群れが良質の牧草を食することが可能となったの
は、2月18日からの僅か11日間に過ぎず、水田あぜ道の雑草等が主食となった。
採食場所については、群れが姿を現した1月14日から数日は、越冬1〜2シーズンに採食地として利用した場所に
現れたものの、結局はかってない積雪量のため一箇所での採食が困難となり、A地区、B地区、C地区を転々とした
が、昨シーズンまでに利用したことのない場所での採食が目立ち、この行動は越冬9シーズンで初めてのパターンで
ある。
しかし、マガンの糞を調べて見ると殆どが緑色をしており、牧草を食することが出来なかったものの、田の雑草の新
芽を食べていたので予想した以上に食料を確保出来ていることに安堵した。
<1月3日>
○250羽のマガン群れを今シーズン初めてウトナイ湖で発見。
<1月14日>
○200羽以上のマガン群れがウトナイ湖より静内町へと移動して来る。しかし、1月12日、13日とウトナイ湖での
マガンを確認出来ていないことから、この時点で静内町へと移動していた可能性もあるが、結局は確認出来ずに
不明。
<1月15日>
○この日で220羽のマガンを確認。最低でも220羽以上はいるものと思われる。
<1月16日>
○この日以降、マガン個体数は100羽程度に減少しそのまま越冬数となる。
<1月27日>
○ヒシクイ幼鳥1羽が、マガン幼鳥1羽と共に計2羽で本群とは別にB地区で、独自の採食行動することが多くなる。
<1月24日>
○20羽〜40羽、60羽〜80羽と二つの群れとなり採食することが多い。
<1月27日>
○マガン30羽程度、マガン70羽程度。そしてマガン、ヒシクイ幼鳥の2〜3羽と3グループに分かれての採食となる。
<1月31日>
○そろそろ2月が近づき、個体それそれの動きが活発化し、群れの行動範囲も広がる。また、鳴き交わしが繁盛に
行なわれる。
<2月1日>
○この日は2群に分かれての採食。
<2月7日>
○一箇所に落ち着いての採食が少なくなり、飛翔する時間が多くなってきた。辺りは相変わらずの降雪により雪野
原。本日現在、雑草も新芽がかなり出てきておりマガンの糞も緑色。
<2月11日>
○ヒシクイ1羽を除きマガンが一つの群れとなり採食。この日以降、ヒシクイ1羽とマガン本群との二グループに分か
れての採食行動となる。
<2月17日>
○マガン本群の姿を静内町では確認出来ず。
<2月18日>
○マガン99羽を確認。
<2月22日>
○この日もマガン群れを町内では確認出来ず。
<2月24日>
○二日振りにマガンを確認。しかし、個体数は110羽を確認。今シーズン越冬数より5羽増えている。北帰行マガン
群れがそろそろ北上して来ており、その一部と合流したものと考えられるが、一体どこで合流したものなのか、そ
して、なぜマガン群れが静内町で越冬したことが分かったのか不思議。
<2月25日>
○この日の個体数はマガン106羽、ヒシクイ1羽の計107羽で日々個体数が変化している。
<2月27日>
○マガンを静内町内では確認出来ず。
<2月28日>
○午前10時、マガン約100羽を町内C地区で確認。これが今シーズン静内町でのマガンの最終確認となる。
<2月29日>
○静内町ではマガンを確認出来なかったが、鵡川町で約5,000〜6,000羽のマガンを確認。
<3月4日>
○午前5時44分、静内川上流から下流へと飛翔するマガン15羽を確認。渡り移動中のマガン少数が静内川中流
域でねぐらをとった後、再び移動するための行動と思われる。
●1シーズン目/平成7年12月22日〜平成8年3月24日(93日間)
42羽 (マガン41羽、ヒシクイ1羽)
●2シーズン目/平成8年12月29日〜平成9年2月23日(57日間)
28羽 (マガン28羽)
●3シーズン目/平成10年1月6日〜平成10年2月22日(48日間)
34羽 (マガン33羽、シジュウカラガン1羽)
●4シーズン目/平成10年12月28日〜平成11年2月25日(60日間)
48羽 (マガン47羽、ヒシクイ1羽)
●5シーズン目/平成11年12月21日〜平成12年3月22日(93日間)
68羽 (マガン63羽、シジュウカラガン4羽、ハクガン1羽)
●6シーズン目/平成12年12月13日〜平成13年2月22日(55日間)
54羽 (マガン52羽、ヒシクイ1羽、ハクガン1羽)
●7シーズン目/平成13年11月29日〜平成14年2月22日(87日間)
126羽 (マガン125羽、ヒメシジュウカラガン1羽)
●8シーズン目/平成14年12月17日〜平成15年2月24日(70日間)
113羽 (マガン113羽)
●9シーズン目/平成16年1月14日〜平成16年2月28日(46日間)
105羽 (マガン104羽、ヒシクイ1羽)
※平均値/越冬群数〜68.7羽、越冬期間日〜67.7日