1730年代、江戸時代中期(享保・元文年間)に実施された動植物の全国
一斉調査で、ガン分布状況(享保・元文諸国産物帳)を調べて見ると、全国
でガンの渡来の記録がない国は、日向(宮崎県)、播磨(兵庫県の一部)、
尾張(愛知県の一部)、信濃(長野県)、陸奥(青森県と岩手県の一部)のた
った5つの地域に過ぎず、いかに全国的にガンが分布、渡来していたかが分
かります。
しかし、マガンは1940年代に推定50,000羽以上が生息していたにもかか
わらず、国内での生息環境の悪化などが原因で年々、個体数は減少し、特
に1950年代後半から60年代前半にかけて行われたゴルフ場等の開発は、
ガン類の越冬地に最も打撃を与え、関東地方では千葉県印旛沼・手賀沼、
埼玉県川越市伊佐沼などがどんどん開発の嵐に巻き込まれていきました。
結果、1970年のガン類総渡来数は5,000羽となり、1940年代推定の一割
にも満たない水準にまで落ち込んでしまいましたが、1971年(昭和46年)
マガンとヒシクイを天然記念物に指定、ようやく狩猟鳥から除かれ保護の網
がかけられました。
1966年、国際自然保護連合(IUCN)は、世界的な規模で絶滅の恐れの
ある動植物の種を選定、その生息状況などを明らかにしたレッドデータブック
を作成(初版発行)し、ワシントン条約などの国際条約や各国の保護政策の
基礎データとなりました。
1991年、わが国でも先進国から遅れをとったものの、環境庁により鳥獣
以外も含めた野生動物全般を対象とした種の保護を進める第一歩として、国
内に生育・生息する野生動物の内、絶滅の恐れのある野生動物の種をリスト
アップし、それらの分布や生息状況などを明らかにしたデータ集、すなわち日
本版レッドデータブック『日本の絶滅の恐れのある野生動物−脊椎動物編』
『同一無脊椎動物編』が相次いで発行されました。
その作成にあたっては、環境庁内に野生生物保護対策検討会を設置、分
類ごとの9つの分科会によって、わが国に生息する野生生物群の分類・分布
生息状況などを明らかにした基礎データがそれぞれ作成されました。
次いで、そのデータをもとに専門家の研究上の知見や経験も踏まえ、レッ
ドデータ掲載種の選定が行われ、鳥類では下表のとおり、シジュウカラガン、
サカツラガンの2種が危急種に。マガン、ヒシクイ、コクガンの3種が希少種
と計5種のガン類が指定され、現在に至っています。
種 類 | 天然記念物 | レッドデータ ブック |
その他 | 説 明 |
マカ゛ン | 天然記念物 (1971年) |
希少種 (1991年) |
なし | ユーラシア大陸と北米大陸の一部で繁殖し、日本には冬鳥として渡来する。1940年代に推定50,000羽以上が生息していたが、国内での生息環境が悪化し年々、個体数は減少、結果、1970年のガン類総渡来数は5,000羽となり、1940年代推定の一割にも満たない水準にまで落ち込んでしまった。 1971年(昭和46年)、マガンとヒシクイを天然記念物に指定、ようやく狩猟鳥から除かれ保護の網がかけられ近年は個体数が増加する傾向にある。 1995年から北海道静内町でも越冬を続け、注目されている。全長72cm |
ヒシクイ | 天然記念物 (1971年) |
希少種 (1991年) |
なし |
ユーラシア大陸ツンドラ地帯の東シベリア(主に北極圏)で広く繁殖し、日本や韓国に多数が飛来する。国内では冬鳥として渡来し、北日本から太平洋側の水田地帯がある限られた池や沼で越冬する。 非常に警戒心が強くねぐらは広い水面や湿地など人間の近づけない場所であることが多い。 地上での生活はマガンと同様に常に群れで行動し、昼間は安全な湖沼で過ごすことが多いが、安全であれば昼間でも採食する。 その名のとおりヒシの実を好んで食することからヒシクイの名がついた。体形はマガンよりはやや大きくオオヒシクイよりは小さい。 国内での越冬数は僅かに6,000羽で全長85cm。 |
オオヒシクイ | な し | 希少種 (1991年) |
なし | 北極圏とそれに隣接する東シベリアのタイガ地帯で繁殖し、日本にはカムチャツカ半島西海岸の地域個体群が冬鳥として渡来し、北日本から日本海側の水田地帯がある限られた池や沼で越冬する。 国内での越冬数は僅かに7,000羽で世界の推定数も10,000羽と希少である。首を地面と平行にしたり空に向け突き出すなどの様々なしぐさ、不思議な夜間活動など、ガンの中で最も表情が豊かな行動で知られるが、繁殖地やその詳しい生態はまだ分かっていない。 日本に渡来するガンの中では最も大きいコハクチョウほどもある大きな体、野太い独特の鳴き声、ビシビシと辺りに鳴り響く羽音など野生味があふれるガンである。 |
コクガン | 天然記念物 (1947年) |
希少種 (1991年) |
なし | 北極海のツンドラ地帯で繁殖する小型のガン。東アジアのほか、ヨーロッパの北極沿岸の一部とイギリス、カナダのバンクーバー及びメキシコ付近の太平洋岸、アメリカの大西洋岸で越冬する。 アジアでは日本以外に韓国と中国の渤海沿岸で越冬する。海岸部での岩礁にあるアオサ、イワノリなどの海藻や湖沼のマコモなどの水草を好んで採食する。 日本のガン類は長い間狩猟鳥であったが、個体数の減少が著しいためコクガンは1947年、狩猟鳥から外された。 北海道東部では秋に3,000羽〜5,000羽が渡来するが、日本での越冬数は僅かに1,000羽に満たない。全長61cm |
ハクガン | な し | な し | なし | 東シベリアからベーリング海を隔てた北米大陸の北極圏と、グリーンランド北西部で繁殖する。 かっては東シベリアのツンドラ地帯で広く繁殖し、日本でも江戸時代までは雪が降り積もったと見間違えるほど多数が飛来していたが、近年はほかのガンやハクチョウたちに交じって数羽が観察される程度に減少してしまった。 しかし、近年は日本雁を保護する会がロシアなどと共同で復元計画を進めていることもあり、毎年、少しづつでも越冬数が増えている。 ガン類などと一緒に安全な池やや沼で休息し、広い水田地帯などで地上を歩きながら餌をとる。 また、1999年度には北海道静内町でも1羽が越冬した。 全長67cm。 |
シジュウカラガン | な し | 危急種 (1991年) |
特殊鳥類 | カナダガンの1亜種でアリューシャン列島で繁殖し、アメリカ西海岸で越冬する。1935年ごろまで宮城県に数百羽が冬鳥として渡来。 また、かっては東京湾などでも毎冬、見られたが、近年ではごくまれにほかのガンに交じって1〜数羽が渡来するにすぎない。 秋田県・八郎潟、宮城県・伊豆沼やその周辺で記録されている。北海道静内町でも1997年度にロシア・エカルマ島で放鳥された人工飼育の標識鳥(069)1羽が越冬し、更には1999年度にも4羽が越冬した。 首に白い輪が゛明瞭にあるのが特徴であるが、これより小型のヒメシジュウカラガンも冬期に少数が飛来する。 全長68cm。 |
サカツラガン | な し | 危急種 (1991年) |
なし | シベリア東南部や中国東北地方で繁殖する。以前は冬鳥として千葉県下の東京湾などに100羽以上の群れで定期的に渡来したが、近年ではほかのガンに交じって、ごくまれに1〜数羽が記録されるのみである。 渡来地としては日本では主に北海道、本州北部、九州などで、挑戦半島には現在も群れで飛来する。渡来地では広い水田や干潟、湖沼、河口などで越冬する。 くちばしは大きく、頚部は伸ばすと長く見えるが、縮めて眠ると他のガンとは識別しづらい。 シベリアの繁殖地では300〜400つがい以下といわれている(北海道十勝川河口域では、ここ数年、秋と春に必ず観察されている)。全長88cm。 |
カリガネ | な し | な し | なし | 東シベリアでは、マガンの分布域よりやや南の森林性ツンドラに多い。全世界の推定個体数は20,000羽で日本には毎年、少数がマガンの群れと一緒に渡来し、宮城県伊豆沼だけに定期的に飛来し越冬するが、それ以外の地域では確認されることが少ない。 マガンに似ているが大きさは全長58cmと小さく、マガモとほぼ同じ大きさで頭頂部近くから額、嘴の基部まで白く、ピンク色をした嘴は短い。 |