【越冬期間/1998(平成10)年1月6日〜3月24日】



姿と行動が可愛いらしいガンで静内町民のアイドルとなつた

      


約一カ月間は、オオハクチョウ8羽のファミリーと共に行動。写真から身体が小さいのが分かる

        


堂々と?白鳥広場を歩く。右足と左足にそれぞれの脚環が確認できる

         


3月24日早朝の旅立ち、これがシジュウカラガン最後の姿となった



   


●はじめに
  日本では絶滅危惧種に指定されているシジュウカラガンをアメリカと同じように個体数を
復活させ、その渡りを復元できないものか。
  日本雁を保護する会と仙台市・八木山動物公園は共同で1980年、日米両政府の理解と
協力のもとアメリカ内務省の魚類・野生生物保護局パタクセント野生生物研究所からシジ
ュウカラガン9羽が種鳥として提供され、事業がスタートした。
 9羽のシジュゥカラガンは八木山動物公園で順調に繁殖を続け、1985年からロシア北部
へ渡らせるという試みがスタート。しかし、越冬地放鳥での渡りの復元は、世界的にも例が
なく、ことごとく失敗。この間、日本雁を保護する会とソビエト科学アカデミーカムチャツカ生
態学研究所との共同調査により、マガンとヒシクイの渡りルート、繁殖地が次々と解明され
た。
  ソビエト連邦崩壊により政治情勢も大きく変化、千島列島やカムチャツカ半島での事業
展開も可能となったため、1994年、従来の計画を大幅に変更し、カムチャツカ生態研究所
のN.され、八木山動物公園から16羽のシジュゥカラガンもカムチャツカへ送られ、現地での
繁殖もスタートした。
 1995年、今度は放鳥場所を越冬地から繁殖地へと変えての事業を開始。かっての繁殖
他の一つと言われる千島列島・エカルマ島から先導役のオオヒシクイ1羽と共に14羽のシ
ジュウカラガンをはじめ、二年後の1996年までの間に63羽が放鳥された。
 そして、1997年12月30日、宮城県古川市の水田で標識シジュゥカラガン3羽(061.063.
226)の発見に続き、1998年1月6日、北海道静内町、静内川でも標識シジュウカラガン1羽
(069)が確認された。
  これは1996年8月1日、千島列島にあるロシア・エカルマ島より人工繁殖され放鳥された
シジュウカラガン33羽の内の4羽で、日本雁を保護する会がナショナルプロジェクトとして放
鳥を始めた1985年より数えて苦節14年。幾多の関係者の情熱、ロマン、そして費やされた
時間と労力がようやく結実したもので、素晴らしい結果となった。
  シジュウカラガン(069)は、1998年1月6日、静内で発見された後、仙台市八木山動物公
園へと通報され、1月8日、日本雁を保護する会・呉地会長から私へと連絡が入り、翌9日
から観察を開始、3月24日、早朝、静内川より日高山脈へ向けて飛び立つまでの78日間、
毎日、観察した。
  なお、このシジュウカラガンが発見された日は、たまたま、この年のマガンの群れ33羽の
静内越冬開始日と同じ日となつたが、その後の越冬行動から判断すると、これらの群れと
同一行動を取っていたとは考えくい。

●越冬期間・越冬数等
 *シジュウカラガン(標識鳥:069)
   平成10年1月6日〜平成10年3月24日(78日間)/1羽
 *参考
   マガン/平成10年1月6日〜平成10年2月22日(48日間)/33羽(成鳥・幼鳥区分不明)

●「069」データ

  ○繁殖年   〜1996年
  ○性別    〜不 明 
  ○放鳥場所 〜ロシア・エカルマ島(千島列島) 
  ○放鳥年月日〜1997年8月
  ○父親    〜V32(1994仙台市・八木山動物公園より)
  ○母親    〜V31(1994仙台市・八木山動物公園より)
  ○首環番号 〜069(黄色地・黒標示)
  ○左脚環番号〜T69(プラスチック製)
  ○右脚環番号〜C604 227(メタル製)

●越冬理由
  静内には冬でも結氷しない静内川があり、餌、ねぐらという越冬に不可欠な二つの条件
を満たすため、基本的に越冬できる環境が整っている。
  具体的には、河口域には川の流れが比較的緩やかな白鳥広場があり、身体が小さいシ
ジュウカラガンが行動するにも不自由はなく、ハクチョウを中心とする同広場での人工給餌
体制も整っており、水草などもそれなりに自生していることから、生息するための最低限度
の条件が確保されており、越冬が可能となったものと思われる。
  しかし、ガン類自体が圧倒的に希少である北海道をなぜ、越冬地として選択したかとい
う理由については私には分からない

●採食地・採食物
 ○採食地〜ほとんどが静内川河口域のA〜D地点、半径約300mという狭い範囲である。
 ○採食物〜残念ながら主食の大半は人工給餌。種類は米、トウモロコシ、パン、燕麦、麦
         などであるが、なかでもトウモロコシはカロリーが高い性か、大きさや形状が
         食べやすいのか、最も好む採食物である。

●ねぐら
  静内川河口域のA〜D地点。白鳥広場であったり時には中州であったりと日々の環境で
変わる。

●マガンとの関係
  このシジュウカラガンが発見された日とこの年のマガンの群れ33羽の静内渡来日が同
一日であるが、その後はマガン群れとは全く別行動をとるなどの越冬行動から判断すると、
これらマガンとの関係が密接であるとは肯定しずらい。

●ハクチョウとの関係
  1月中は、オオハクチョウ8羽(成鳥2羽・幼鳥6羽)のファミリーと終日、同一行動をとり、
特に成鳥のシジュウカラガンに対する気配りは我が子同然の扱いでもあるなど極めて密度
の濃い関係であったが、2月以降は環境にも馴染んだのか、また、オオハクチョウファミリー
がいなくなったのか、単独での行動となった。 
  1987(昭和62)年4月、浜頓別町クッチャロ湖にシジュウカラガン(標識鳥−007)1羽が
コハクチョウを仲間や親のように慕い、絶えず行動を共にしていた例が観察されているが、
今回も同様のケースと考えられる。

●観察例
 ◎1月9日(金)、6:30〜12:50(晴れ)
  ○場所〜白鳥広場
        (ほとんどが静内川河口域のA〜D地点、半径約300mという狭い範囲)
  ○確認〜1羽
  ○行動〜6:30〜静内川の河口域でオオハクチョウ8羽のファミリーと一緒に背眠してい
             るシジュウカラガンを確認。マガンを見慣れている性か、身体が本当に
             小さく見える。
       7:56〜オオハクチョウ8羽のファミリーと共に行動を開始。オオハクチョウファミ
             リーは盛んに羽繕いをするが、シジュゥカラガンは水面上を移動するだ
             け。
       8:08〜寒さの性か再び背眠、そのまま動かず。
       8:30〜勤務のため職場に戻る。
      12:10〜燕麦をあたえるが食欲旺盛に食べる。水面に浮かぶ水草も盛んに採食
            する。
      12:22〜マガモの雄の尻を突き威嚇するが、オオハクチョウには嘴で威嚇され、
             やむなく退散。身体の大きさが違いすぎ、勝負にならない。
      12:23〜身体が小さなため川の流れを水掻きでコントロールするのが大変。
      12:26〜人を恐れる気配がまったくなく、ついには白鳥広場に上がりこぼれてい
             る燕麦を食べ歩き、この先のことを考えると不安となる。
      12:30〜呉地さんから依頼された左足のプラスチック脚環をビデオと写真に収め
             る。
      12:50〜職場復帰のため現場離脱。

◎1月11日(日)、14:00〜16:05(くもり)
  ○場所〜白鳥広場
  ○確認〜1羽
  ○行動〜14:00〜今日もオオハクチョウ8羽のファミリーと常に行動を共にしている。人
              が近づくとオオハクチョウ成鳥が威嚇をしたり、カラスが近づくと再び
              成鳥が追い払ったりするなどの行動があり、ハクチョウファミリーがシ
              ジュウカラガンをファミリーの如く迎える入れ、見守りながら行動をし
              ていることがよく分かる。
       14:35〜高階さん親子が差し出す食パンを何の抵抗もなく美味しそうに食べる。
       15:12〜羽繕いを始める。その動き、パターンはオオハクチョウの羽繕いと同
              様で、それをオオハクチョウから学習したものか、本能で可能なものな
              のか、興味がある。
       15:16〜羽繕いが終了後、ファミリーと共に水上を移動中、盛んに鳴く。鳴き声
              はマガンより小さく声量も劣る。しかし、野太い声で「ブブブッ、プブブッ」
              の音がはっきり認識できた。また、これを数分間、ビデオにも収録出来
              きた。
       15:50〜いきなりオオハクチョウ8羽のファミリーと大空へと飛び立つ。飛行コー
              スは、静内川河口から太平洋へと向かい、新冠町方向へと姿を消す。
       16:05〜新冠川へと行ってみるが河口は全面結氷しており、生息できる環境下
              とはなつておらず。他の水鳥も含め個体を確認できず。残念ながら今
              日の観察はこれで中止。

◎3月24日(月)、7:36、12:10〜12:30(晴れ)
  ○場所〜白鳥広場
  ○確認〜1羽
  ○行動〜7:36〜飛び立つ前に数m飛んでみたりと多少のウォーミングアップをし、遂にオ
             オハクチョウ群れ30羽と一緒に日高山脈に向かい飛び立つ。飛び立ちの
             タイミングはオオハクチョウの後を追うのではなく、同時に飛び立つ。この
             自立心があれば、これから待ち受けているだろう数々の試練を乗り越え
             て、再び静内へと帰って来てくれるだろう。
      12:10〜静内川と神森地区を探索するが姿は確認できず。日本雁を保護する会の
             これまでの活動に報いるためにも無事にエカルマ島までたどり着くことを
             祈るのみ。

*3月25日以降、静内町及び他地域でのシジュウカラガンは未確認。

●資料提供:日本雁を保護する会